医療情報等の共有に向けての環境整備

松山健(常任理事) (2020年7月センターニュース388号情報センター日誌より)

「標準的医療情報システムに関する検討会」の構想

 2019年11月の本稿では、「標準的医療情報システムに関する検討会」が示した電子カルテの標準化に向けての方策についてご報告しました。
 同検討会では、医療機関内のみならず、医療等機関相互間や患者個人における情報、国民1人1人の健康・医療・介護情報(たとえば健診・検診データ、医療・介護レセプト情報など)の利活用を可能とする医療情報システムの構築を構想しており、電子カルテの標準化は、電子記録についての情報連携を推進する上での重要な課題として位置づけられています。

EMR、HER、PHR

 医療情報システムの分野では、EMR、EHR、PHRという用語が用いられていますが、この用語によって、構想されている、あるべき医療情報共有システムが理解しやすくなります。
 EMR(電子医療記録:Electronic Medical Recordの略)は、電子カルテシステムを中心とした医療機関内部の情報システムに蓄積された診療情報を指し、簡単に言えば、院内で使用することを目的とした電子カルテシステム(狭義の電子カルテ)のことです。
 EHR(電子健康記録:Electronic Health Record の略)は、複数の医療機関のデータを一元管理して、個人の一生涯の医療情報をネットワークを活用し国民一人一人の生涯にわたる健康・医療・介護に関する情報を電子的に記録し、蓄積し、患者のQOLの向上を図るEMRの延長としての生涯型電子カルテ(広義の電子カルテ)のことです。
 PHR(個人健康記録:Personal Health Recordの略)は、患者が主体となってネットワークを活用して、自らの患者データを管理するシステムのことです。PHRの仕組みを使って、患者自身が自らの検査データや診療録を保有し、自己決定に基づく診療を実現すべく医師とのコミュニケーションを行ったり、セカンド・オピニオンを得たりできるようになります。
 つまり、まず院内の電子カルテシステム(EMR)を確立して、情報共有の基盤を整備して、将来的に、医療機関相互での情報の利活用(EHR)と患者個人による情報の利活用(PHR)を可能にするシステムを構築しようということです。

健康・医療・介護情報利活用検討会

 従来、上記のPHRについては「国民の健康づくりに向けたPHRの推進に関する検討会」で、EHRについては「医療等分野情報連携基盤検討会」で、それぞれ別個で検討が進んでいました。
 また、2019年10月に、厚労省「医療等情報の連結推進に向けた被保険者番号活用の仕組みに関する検討会」は、医療等分野の研究開発推進と医療機関等の間での患者情報の共有推進のため、医療等情報の連結の推進に向けた具体的な提言をしていました。
 これらを踏まえて一本化した議論を進めるべく、2020年3月に設置された厚労省「健康・医療・介護情報利活用検討会」(以下「検討会」)は、6月15日の第3回まで、オンラインで会議を開催して、活発に検討を重ねています。

これまでの議論の整理

 6月15日の検討会では、レセプトを使って、各患者の手術歴や透析などの診療情報を全国の医療機関等が参照でき、レセプトの情報に基づいて、手術、移植、透析などの診療行為と、それを実施した医療機関名を、患者ごとに紐付けて記録するシステムを構築する方針が示され、また、薬剤情報については、保険証の代わりにマイナンバーカードに埋め込まれるICチップで被保険者資格を確認する「オンライン資格確認」(2021年3月末に全国6割程度の医療機関での本格運用開始を目指す)で、過去のデータが閲覧できるようにする予定が示されました。さらに、保険者や自治体などがそれぞれ実施している健診・検診の情報を一元的に閲覧できる仕組みの構築や、電子処方箋の利便性を向上させることが示され、いずれも了承され、検討会としての方針が示されました。
 検討会の方針を踏まえて政府は、7月に取りまとめを予定している「骨太の方針2020」に「2021年度以降の絵姿と工程表」を策定して盛り込むべく調整に入ります。

まとめ

 通常の診療でも、過去の病歴、手術歴、薬剤投与歴などを漏れなく医療従事者に伝えることは難しく、病歴等の確認不足等のため、禁忌となる薬剤が処方されたり、症状についての疾患の鑑別に遅れが生じる等の事態は散見されるところです。
 交通事故等で意識不明で救急搬送された場合や、認知症状が重篤化した患者が単身で受診した場合などには、医療従事者が病歴情報を的確に把握することは不可能であり、医療情報の共有による利活用が医療の安全や質の向上のために機能する局面は多いといえます。
 もっとも、医療等に関連する情報は個人情報として情報漏えいが生じた場合の被害が深刻なだけに、堅固なプライバシー保護やシステムのセキュリティー対策の構築を図るよう配慮しつつ、環境整備が進められることを見守りたいところです。