事故調査制度のよりよいあり方を求めて~運営委員会作業部会の議論とりまとめ資料より

堀 康司(常任理事) (2020年9月センターニュース390号情報センター日誌より)

論点は広報・報告件数・制度名称の3点

 本年8月12日、医療事故調査・支援センターの運営委員会が開催されました。今回の会合では、昨年11月の前回委員会開催後、「制度の普及・定着方策作業部会」において行われた議論のとりまとめが報告されました。
 制度の普及・定着促進方策作業部会では、制度発足4年を経過した時点での課題として、①広報、②報告件数、③制度名称の3点についての議論が行われたとのことです。

生存事例の調査を願う国民の声

 ①の広報については、センターへの一般からの相談では生存事例などの制度対象外のものが約半数を占めていること等から、周知の効果が十分とは言いがたい状況であると評価されています。
 そして、議論のとりまとめの中では、病院内での周知については医療法に基づく立ち入り検査時の指導や、二次医療圏毎に設置されている医療安全支援センターを通じた啓発、同制度の研修出席を誘導する形での診療報酬改定等が提案されています。
 確かに本制度は死亡事例を対象とするものですが、重篤な被害を生じた生存事例についても原因分析を行い、その情報を共有することは重要です。単なる周知不足というだけではなく、生存事例の報告や調査を願う国民の声の意義についても焦点を当てた議論が進められることが期待されます。

報告文化を醸成するために

 ②の報告件数については、年間報告数が370件台でほぼ横ばいとなっており、2019年の年報を見ても、900床以上の医療機関53病院中15病院が制度開始後の約4年間で報告実績がないままとなっていることが明らかとされています。
 作業部会での意見では、特定機能病院の医療安全委員会で死亡事例を検討する中で、この事例がなぜ医療に起因していないのかと思うことがあるが、「管理者の判断」と言われると、それ以上話すことができなくなるという実情にあることを指摘する声も上がっています。
 この点の議論のとりまとめとしては、医療法上の立入検査に関する令和元年7月18日付医政局長通知では、令和元年度より「医療事故情報収集事業に報告を行っている死亡事例について、医療事故調査制度への報告を行っているかを確認し、指導を行う」こととなっており、この指導の際に、報告すべき事故の範囲に関する認識を確認することや、特定機能病院が厚労大臣に提出する「業務に関する報告書」(医療法第12条の3第1項)の「入院患者が死亡した場合などの医療安全部門への報告状況」欄に、事故調査制度への報告件数を追記することなどを厚労省に要請していくとの方向性が提案されています。
 遺族代理人として同センターへの報告を促した際に、病院管理者が首をかしげたくなるような理由で制度該当性を否定する例もあれば、意を尽くした遺族からの説明を理解して事故報告を正しく行うようになった例もあります。積極的な事例報告を行う施設が社会においても高く評価されるよう、患者側からも様々な事例の情報を社会に発信し、安全文化の定着した病院が社会においても高く評価されるように促していくことが重要な課題であると言えます。

通称名のマイナス面にも十分な配慮を

 ③については、「医療事故調査制度」という名称が、事故発生報告を躊躇させる要因となっているとの現状認識に基づき、「事故」という表現を用いない制度の通称名の必要性が検討されています。
 議論のとりまとめでは「予期せぬ死亡調査制度」「死因調査制度」「医療安全調査制度」といった案が出されていますが、他方で、通称を定めることにより、制度変更があったとする誤解や制度が2つあるとする誤解をもたらして現場を混乱させるのではないかとの指摘もあったことが紹介されています。
 事故に学び、広く情報を共有して日本の医療を安全にしようとする院内文化が未だに定着していない病院に対しては、通称名の効果は限定的なものにとどまるはずです。他方、死亡以外の事例についても調査を希望する相談が数多く寄せられる中で、死亡例の調査を意味する通称を用いることが、こうした国民の願いに沿った本制度の将来的な発展に枠をはめるものとなってしまっては、本末転倒です。
 「予期せぬ死亡調査制度」等の通称を使用することが、医療事故調査制度の更なる展開の妨げとならないよう、十分な議論と配慮をさらに尽くしていくことが求められます。