感染症法改正に反対する理事長声明
2021/01/26
医療事故情報センター
理事長 弁護士 柴 田 義 朗
名古屋市東区泉1-1-35 ハイエスト久屋6階
電話・052-951-1731 FAX・052-951-1732
http://www.mmic-japan.net/
医療事故情報センターは、患者・家族の代理人として医療事故に取り組む全国の弁護士を正会員として構成される団体であり、医療における人権確立、医療制度の改善、診療レベルの向上、医療事故の再発の防止、医療被害者の救済等のため、医療事故に関する情報を集め、とりわけ医療過誤裁判を患者側で担当する弁護士のための便宜を図り、弁護士相互の連絡を密にして、各地の協力医を含むヒューマン・ネットワークづくりを通して、医療過誤裁判の困難な壁を克服することを目的として設立され、長年にわたり様々な活動を続けて参りました(1990年設立。2021年1月1日現在正会員数634名)。
本年1月22日、政府は、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(以下、「感染症法」といいます。)改正案を閣議決定しました。この改正案において、新型コロナウイルス感染症対策として、入院措置に応じない者や積極的疫学調査を拒否・虚偽報告等した者について罰則を科すことが提案されています。
感染症法は、ハンセン病やHIV感染症患者等に対する差別や偏見が存在したという事実に対する反省を踏まえ、感染症患者等の人権を尊重し、感染症患者等に対する良質かつ適切な医療の提供を確保するために制定された法律です。刑事罰を背景として新型コロナウイルス感染症患者に入院を強制するなどとする改正案は、このような感染症法の理念に反するものと言わざるを得ません。また、このような法改正が行われれば、すでに深刻な問題となっている新型コロナウイルス感染症に対する差別や偏見をさらに助長することになりかねません。さらに、このような法改正が行われれば、差別・偏見の眼にさらされることを恐れ、検査を受けることや医療機関で正確な病状を申告することなどをかえって妨げることにもなりかねず、かかる改正案の感染症対策としての実効性についても強い懸念があります。
新型コロナウイルス感染症への対応は、十分な検査・診療体制と迅速かつ正確な情報提供体制が総合的に整備されること、差別や偏見の解消のための施策の実現こそが重要です。そうした施策を十分に尽くす以前に、罰則を背景として国民に協力義務を課すことを拙速に進めることは、医療における人権の確立を目指す当センターとして容認することはできません。
以上より、当センターはかかる感染症法改正に対し強く反対します。