2022年1月から在胎週数28週に統一、個別審査廃止を決定~新産科医療補償制度の内容が確定

堀康司(常任理事) (2021年5月センターニュース398号情報センター日誌より)

産科医療補償制度見直しが確定

 本年1月号の本欄でご紹介した産科医療補償制度の見直しについては、2022年1月より新基準に移行することが確定しました。

 制度を運営する日本医療機能評価機構は本年1月29日付で、来年からの制度概要を説明したリーフレット(http://www.sanka-hp.jcqhc.or.jp/news/202201kaiteinogaiyou.pdf)を公表し、改定の趣旨を説明しています。

低酸素要件を撤廃し在胎週数での一般審査に統一

 現行の補償対象基準では、出生体重1400gかつ在胎週数32週以上という一般審査基準を満たさない脳性麻痺児については、個別審査で在胎週数28週以上かつ所定の低酸素状況の要件を満たすことを確認するとされています。

 しかし2009年から2014年までの出生児の分析結果において、個別審査で補償対象外とされた児の約99%に「分娩に関連する事象」または「帝王切開」が認められることが判明し、医学的には「分娩に関連した脳性麻痺」と判断されるに至りました。臍帯血pH値や胎児心拍数モニターで低酸素状況を示さないが分娩に関連する脳性麻痺と判断されうる例としては、前置胎盤からの出血(モニター装着ができなかったり、臍帯血pHが変化する前に娩出されるため)一絨毛膜性双胎(酸素は十分でも血流量不足で発症するため)、脳室周囲軟化症(出産時には脳性麻痺の原因事象が回復しいるため)が挙げられています。そして在胎週数28週以上の早産児の脳性麻痺は、周産期医療の進歩により医学的には「未熟性による」ものではないと判断されることから、2022年1月以降の児については、在胎週数28週以上であれば補償対象とされることになりました。

掛金は余剰金から1万円を充当し1.2万円に

 給付額は現行制度と同様で総額3000万円(一時金600万円+補償分割金120万円×20回)のままですが、余剰金から1分娩あたり1万円が充当され、掛金は1万2000円(従来の1万6000円から4000円の減額)になりました。

過去基準で対象外とされた児への手当は議論されず

 新制度は以上のとおりであり、余剰金の使途は将来の掛金へ充当されるものの、過去の個別審査で対象外とされた事例への補償追加の要否などについては、ここまで議論自体がなされないままとなっています。本年2月9日に開催された同制度運営委員会では、2021年12月31日までに生まれるかその翌日以降となるかで適応される基準に違いが生じることについて、事前の周知の必要性があることについては議論されたようですが、1日違いで結果が大きく違ってしまう不合理性や不公平性が放置されてよいのかという観点での意見が出ないままとなっていることは大変に残念です。

 本年1月の本欄でも述べましたが、既存制度による補償の対象外になることはやむを得ないとしても、余剰金による新規事業として、新基準であれば対象とされたはずの児への手当を行うことは、公的制度における扱いについての国民の公平感にもかなうものであるはずです。是非あらためてこの点が議論され、同じ制度に加入しながら医学的に合理性が伴わない旧基準によって対象外とされた脳性麻痺児の生活を支える方策を、皆で議論することが重要であると考えます。