死因究明等推進計画、閣議決定される

松山健(常任理事) (2021年7月センターニュース400号情報センター日誌より)

死因究明等推進計画

 厚労省は、2021年6月1日、公衆衛生の向上・増進等を目的とした解剖や死亡時画像診断に対する補助制度の確立その他死因究明の実施に係る人材及び体制の整備等についての「死因究明等推進計画」を公表しました。

 これは、2019年6月6日に成立し、2020年4月1日に施行された死因究明等推進基本法(以下「新推進法」)を受けて、2020年7月31日の第1回から2021年3月8日の第6回まで死因究明等推進計画検討会(以下「検討会」)において重ねられた検討を踏まえてのものです。厚労省のウェブサイト(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/shiinkyuumei_keikaku.html)で、計画の概要、計画、参考資料が公表されていますので、ご覧ください。

検討開始から計画公表までの背景

 2000年前後から医療事故の再発防止や犯罪死の見逃し防止に対する社会的関心が高まり、我が国の死因究明に関する検視・死体検分、検案及び解剖の制度的不備が指摘され、死因究明に関する制度の整備についての機運が高まり議論が深められました。

 最終的には、診療関連死は対象外として別制度として設けられる予定として(診療関連死に関しては、2014年の医療法改正による「医療事故調査制度」ができました)、2012年に「警察等が取り扱う死体の死因又は身元の調査等に関する法律」(以下、「死因身元調査法」)および「死因究明推進法(旧推進法)」のいわゆる死因究明関連2法が成立したことは2012年5月の本稿でもご紹介しました。

 この旧推進法に基づき、2014年に死因究明等推進計画(以下「旧計画」)が閣議決定されましたが、旧推進法が2年間の時限立法であったため、後継法が国会解散により廃案となったまま2014年9月に失効したため、死因究明制度は、「死因身元調査法」と「医療事故調査制度」の2つのみの形で推移することとなり、新推進法成立までの空白期間は死因究明の実施に係る人材及び体制の充実強化が進まず、この期間中の2019年2月8日に厚労省が発出した医事課長通知「医師による異状死体の届出の徹底について」が議論を呼んだことは記憶に新しいところです。

 今般、新推進法の施行と新計画の策定によって、ようやく、「死因身元調査法」、「死因究明等推進基本法」、「医療事故調査制度」と、死因究明に関する3制度の法的整備が揃ったことになります。

医療に関連する死亡の扱い

 第4回検討会の議事録では、専門委員から法案段階では医療事故、診療関連死も対象とするとされていたところ、最終的に削除されたが、死因究明という広い意味では医療事故調査制度と重なり合う可能性もあり、何らかの形でリンクしていく必要があるという問題意識が示される発言がなされていることが確認できます。

 もともと諸外国には診療関連死を区別しない制度もあり、我が国でも、診療関連死を対象とする厚労省の第三次試案・大綱案に対する民主党案は異状死全般を対象としていたように、診療関連死について特別な調査制度の対象とするかどうか、異状死全般についての死因究明制度との重複を認めるかどうかは制度設計次第であり、法文上規定がない場合にはこのような議論も必要になりうるところです。

 この点、死因究明等推進基本法は第6章「医療の提供に関連して死亡した者の死因究明に係る制度」の第31条で「医療の提供に関連して死亡した者の死因究明に係る制度については、別に法律で定めるところによる。」と規定しており、上記専門委員の発言にも、厚労省事務局から推進法第31条の規定が示されて議論は終わっています。

 このように医療事故調査制度と新推進法とは明確な棲み分けが認められますが、新計画で厚労省の役割とされる各地方公共団体における解剖や死亡時画像診断に係る死因究明等の人材確保や専門的機能を有する体制整備の推進が、医療事故調査制度における人的物的体制整備にも波及的に好ましい効果を及ぼすことを期待したいところです。