既済件数が大幅に減少~令和2年の医事関係訴訟統計より

堀康司(常任理事) (2021年9月センターニュース402号情報センター日誌より)

令和2年の統計で既済事件は大幅に減少

 本年5月に開催された最高裁医事関係訴訟委員会において、令和2年の医事関係訴訟統計が報告されました。これは1審における医事関係訴訟の動向を示すものです。

 今回の統計によると、令和2年の新受件数は834件(前年828件)とほぼ例年どおりでしたが、既済は666件に留まりました。前年の853件と比較して約22%という大幅な減少となります。

 令和2年は新型コロナ禍のために昨年4月~5月ころを中心として、各地で裁判期日の延期が相次ぎました。既済件数の大幅な減少にはこの影響が反映されていることが想像されます。令和3年に入っても都市部を中心に緊急事態宣言の発令期間が長くなっていますが、オンライン方式の活用などの普及もあり、昨年のようにまとまって裁判手続が中断してしまうという事態は今のところ回避されているようです。

平均審理期間は延長傾向が続く

 令和2年の統計では平均審理期間も26.1ヶ月(前年25.2ヶ月)と延びており、26ヶ月台に達するのは平成17年以来15年振りです。こちらも新型コロナ禍の影響が想定されるところではありますが、平成26年に22.6ヶ月となった後、平成31年・令和元年までの間にもすでに審理期間には長期化傾向が認められていました。新型コロナ禍に関わらない医事関係訴訟事件の審理傾向の変化の可能性も含めて、推移を見守る必要がありそうです。

認容率の低下は底打ち?認容+和解率は横ばい

 既済666件の終局区分では、判決が203件(30.5%)、和解が355件(53.3%)でした。既済の総数こそ減少しましたが、既済の半数以上が和解で終了し、判決となるものは全体の3割前後であるという近時の傾向は、令和2年においても同様であったようです。なお、平成11年~14年には終局区分に判決が占める比率が4割を超えていましたが、以後徐々に3割台に低下し、一昨年は29.7%と2割台に突入していました。令和2年も大幅に判決が増加することなく横ばいとなっていますので、終局区分では和解が中心となるという状況が今暫く続くことが想定されます。

 判決で終局した事案における認容率は22.2%でした。平成31年・令和元年は17.0%まで認容率が落ち込んでおり、これは平成11年以降で見ても最低でしたので、令和2年にはこの落ち込みに対して一定の歯止めがかかった可能性もあります。ただ、平成11年~19年の間、認容率が3割~4割台であったことに照らすと認容率の低下傾向に大きな変化は出ていないとも言えます。

 なお、今回の統計結果から、認容事案と和解事案の合計が既済全体に占める割合(認容+和解率)を算出すると60.1%となりました。従来も概ね6割前後で推移しているため、この点での傾向の変化は認められませんでした。提訴された事案のうち、6割前後のケースで、被告側が何らかの支払いを要する内容での結論が出ているという状況に大きな違いは生じていないようです。

令和3年の統計結果に注目を

 令和2年の統計に現れた変化に新型コロナ禍がどの程度影響したかを詳細に分析するのは、令和3年の統計結果の発表を待ってからとなりそうです。ただ大幅に既済が減少した令和2年の統計値からすると、各地裁の医療集中部を中心として、裁判体に医療過誤事件審理の作業負荷が一時的に過大なものとなっている可能性があります。裁判所が医療過誤事件を丁寧に審理できる環境が確保されていることは、司法制度を通じて被害回復を実現する上での重要な条件の1つですので、今後の既済件数の推移に注目を続ける必要がありそうです。