薬剤の誤投与から振り返る医療の安全~医療事故の再発防止に向けた提言 第15号

柄沢 好宣(嘱託) (2022年2月センターニュース407号情報センター日誌より)

「薬剤の誤投与に係る死亡事例の分析」公表される

 本年1月17日、医療事故調査・支援センター(日本医療安全調査機構)から、医療事故の再発防止に向けた提言・第15号として、「薬剤の誤投与に係る死亡事例の分析」(以下、単に「提言」)が公表されました。

 今回の分析は、2015年10月~2020年9月の院内調査結果報告書 1539 件のうち、薬剤に関連した死亡事例(疑いも含む)273 例から、Right Patient(正しい患者)、Right Drug(正しい薬剤)、Right Purpose(正しい目的)、Right Dose(正しい用量)、Right Route(正しい用法)、Right Time(正しい時間)の“6R”に基づく確認が行われなかった36例が対象とされたものであり、薬剤の副作用による事例等は含まれていないそうです。

7+2つの提言

 提言では、①薬剤投与工程における確認、②確認に関するマニュアルの作成、③不慣れな薬剤を容易に調べられる環境の整備、④患者による服薬確認への支援、⑤配置薬の決定・配置の工夫、⑥持参薬の鑑別と継続処方における監査、⑦ハイリスク薬誤投与後の監視・相談といった7項目が指摘されています。これは、36 例中 35 例が確認不足により誤投与に至っており、一連の処方工程においてエラーが検出されていなかったことや、36例中29例がハイリスク薬であったなどの対象事例の特徴を踏まえた提言とされています。

 また、これとは別に、インスリンバイアル製剤については、過去にもインスリン誤投与の警鐘事例が繰り返し報告されていることを踏まえ、特に注意喚起をする目的で、インスリンバイアル製剤について、⑧インスリンの指示・確認、⑨インスリン専用注射器の使用の2項目が提言されています。

ひとつひとつのエラーをなくすための努力を

 「薬剤の誤投与」と聞くと、やはり都立広尾病院事件がまず頭に浮かびます。同事件からはや20年以上を経ており、提言でも指摘されているとおり、この間、各方面から様々な薬剤の誤投与に関する警鐘事例が報告されていますが、それでもなお誤投薬の事例が後を絶つことはありません。

 薬剤の誤投与は、人為的な要素が色濃く反映される事故類型のひとつであると思われます。その分、どうしても間違いが介在しやすい医療行為でもあるように思います。しかし、ちょっとした確認で重大な結果を回避することができるものでもあり、そうした確認が行われないまま死亡という結果に至ってしまうことは大変に残念なことです。

 今回の提言でも、「誤投与を決して起こさないためには、『誤りを起こすことが避けられない人間の特性』を理解したうえで、対策を考える必要がある」として、未然防止を目的とした工程管理や誤投与発生後の監視などのシステム対策に重点がおかれています。

 おそらく、そうした対策のひとつひとつは、基本的でありながらとても地道な作業になるのではないでしょうか。しかし、それを確実に実行することで、エラーの芽を着実に摘み取っていくことが期待されるのだろうと思います。

 なお、同提言の内容は、こちらのURLからご確認いただけます。https://www.medsafe.or.jp/uploads/uploads/files/teigen15.pdf