各医療関係職種の専門性の活用

松山健(常任理事) (2022年3月センターニュース408号情報センター日誌より)

医療法一部改正の一環

 2021年6月の本稿で、医療法の一部改正についてご紹介し、改正の概要は次の4本柱からなることをお伝えしました。

1.医師の働き方改革

2.各医療関係職種の専門性の活用

3.地域の実情に応じた医療提供体制の確保

4.その他(持ち分の定めのない医療法人への移行計画認定制度の延長)

2.各医療関係職種の専門性の活用に関して、2021年9月30日付で各都道府県知事宛事務連絡として「現行制度の下で実施可能な範囲におけるタスク・シフト/シェアの推進について」と題する厚労省医政局長通知(以下、「通知」と略称。医政発0930第16号https://www.hospital.or.jp/pdf/15_20210930_01.pdf)が発出されています。議論の背景については、医師の働き方改革を進めるためのタスク・シフト/シェアの推進に関する検討会「医師の働き方改革を進めるためのタスク・シフト/シェアの推進に関する検討会議論の整理」(2020年12月23日 以下、「議論の整理」と略称。https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000720006.pdf)が参考になりますので、ご参照ください。

 以下では、看護師を例に、通知でタスク・シフト/シェアが可能な業務として挙げられているものをご紹介します。

特定看護師制度

 2015年10月から「特定行為に係る看護師研修制度」が施行されています。

 特定行為とは、特定行為研修を修了した看護師が、医師又は歯科医師の判断を待たずに、医師が予め作成した手順書(医師による包括的指示の形態のひとつ)によって一定の診療の補助を行うことができる実践的な理解力、思考力及び判断力並びに高度かつ専門的な知識及び技能が特に必要とされる38の行為(21区分。例、気管カニューレの交換、脱水症状に対する輸液による補正、感染徴候がある者に対する薬剤の臨時の投与、直接動脈穿刺法による採血)を指します。

タスク・シフト/シェア可能な業務

①特定行為の実施

 特定行為研修を修了した看護師が手順書により特定行為を行うことは従来通り可能です。

 次の②~⑦は、特定行為研修を修了していない看護師も可能となります。

②事前に取り決めたプロトコール(事前に予測可能な範囲で対応の手順をまとめたもの)に基づく薬剤の投与、採血・検査の実施

③救急外来における医師の事前の指示や事前に取り決めたプロトコールに基づく採血・検査の実施

④血管造影・画像下治療(IVR)の介助

⑤注射、採血、静脈路の確保等

⑥カテーテルの留置、抜去等の各種処置行為

⑦診療前の情報収集

医師の負担軽減の実現と安全と質の確保のバランシング

 議論の整理の冒頭で述べられるように、医療関連職種へのタスク・シフト/シェアは、医師の業務を他の職種にすることて、医師の業務量を削減する、という点に第一義の目標があるとされます。

 医行為(当該行為を行うに当たり、医師の医学的判断及ひ技術をもってするのてなけれは人体に危害を及ほし、又は危害を及ほすおそれのある行為)は、医師(又は歯科医師)が常に自ら行わなければならないほど高度に危険な行為(絶対的医行為)と、医師又は歯科医師の指示、指導監督の下に看護師等が行える行為(相対的医行為)に分類されます。

 医行為でない行為はもちろん、相対的医行為も、他の医療専門職種もそれそれの職域毎に医学的判断及ひ技術に関連する内容を含んた専門教育を受け、一定の能力を有していることを前提に、実際に業務実施に当たる個人の能力の範囲内て実施てきるか否かに関する医師の医学的判断をもって、医師の指示の下、職種毎に診療の補助として実施可能な業務を各資格法に定めることにより、その定められた範囲内て医行為を実施てきるようにすることは、医師が本来医師のみに期待されるタスクに精力を集中できる環境を確保するという意味で医療安全と質の向上につながりうるのは確かでしょう。

 他方で、その反面、医師が日常的に接する看護師に限らず、幅広く医療関連職種に医行為にあたる業務のタスク・シフト/シェアを進めることは、包括指示による対応の範囲を逸脱して本来、医師の判断を要する局面であるにもかかわらず、当該関連職種限りの独断での対処の横行を生む温床にもなりかねないリスクを秘めていないとは言い切れません。

 通知に示されている各関連職種のタスク・シフト/シェア可能な業務は概ね穏当なもので無難に線引されているとは思われますが、今後、実際にタスク・シフト/シェアが始まってからの運用実態を見守っていくことが大切でしょう。