「センター調査」の実情と課題

堀康司(常任理事) (2022年5月センターニュース410号情報センター日誌より)

期間短縮化WGが運営委員会にレポートを提出

 医療法上の医療事故調査制度では、医療機関が医療事故と判断して医療事故調査・支援センターに報告した事例について、遺族または医療機関が同センターによる調査(センター調査)を依頼することが可能とされています。

 昨年12月に開催された同センターの医療事故調査・支援事業運営委員会には、センター調査に関する課題検討ワーキンググループ(WG)によるレポートが提出されました。このレポートでは、これまでのセンター調査の詳しい実情を踏まえた具体的な改善策が提案されています。

1年6ヶ月を目標に

 同WGは、2020年12月末までに報告書が交付されたセンター調査54事例を取り上げて分析し、センター調査の申請から交付までの平均期間は約2年4ヶ月で、受付手続に平均123日、個別調査部会(以下、部会)における検討に同477日、総合調査委員会(以下、委員会)の審議に同240日を要したと報告しています。

 ただし直近の事例では、受付手続に2‐3ヶ月、部会検討に9-12ヶ月、委員会審議に4‐5ヶ月程度となっているため、今後のセンター調査の期間の目標を1年6ヶ月程度とすることが提案されています。

個別調査部会経験医師は1000人超に

 部会は平均7.5人で構成され、約2ヶ月おきに2~3回開催されているとのことです。そして、当事者への書面によるヒアリング(5回程度)を行い、センターの作成したマニュアルに沿って調査を進めて報告書案の作成を行っています。学会によっては人選に苦慮するケースがあることから、今後は学会の実情に応じて地域を限定せずに推薦を可能とすることなどが提案されています。

 2021年7月までに部会で調査を経験した医師は1087名に達したとのことです。適切な手順に沿って医療事故の調査を行うという経験を積んだ医師の数が着実に増えていくことによって、医療安全文化が醸成されていくことを期待したいと思います。

短縮化のカギは部会の議論の充実化

 今回のWGは、部会の議論を充実させることが結果的に期間短縮に繋がるととりまとめた上で、部会を原則3回以上開催するとともに、調査支援医師・看護師の増員・育成を進めることが提案されています。これは、部会から報告書案が委員会に提出された後に、委員会から医療機関に追加の事実確認を要した例があることなどの反省を踏まえたものとなっています。期間短縮のために調査の質が劣化するようでは本末転倒ですので、部会での充実した議論が重ねられるようになることは重要です。

 なお、部会からのヒアリングに対する医療機関からの回答が遅延する例もあるとのことですので、医療機関がセンター調査に対してより積極的に協力していくことも不可欠と考えられます。

積極的な情報提供の提案も

 今回のとりまとめでは、「センター調査・報告書作成マニュアル」やセンター調査報告書(要約版)の公表が今後の検討課題として掲げられています。センターが第4版まで改訂を重ねてきたマニュアルの内容が公表されることで、センター調査の透明性が確保され、遺族及び医療機関の双方からセンター調査の趣旨や意義についてより広い理解を得ることに繋がることが期待されます。そしてセンター調査報告書の情報が公表されることは、全国の医療関係者が同種の事故の再発防止をより深く検討していくことに繋がるはずです。

 医療事故被害者の立場からも、こうした施策の具体化がより積極的に進められていくことを期待したいと思います。