「医療広告規制におけるウェブサイトの事例解説書」第2版

松山健(常任理事)(2023年3月センターニュース420号情報センター日誌より)

医療広告規制

 医療広告規制に関しては、本稿でも度々(2017年2月号、7月号、2018年3月号、6月号、11月号)触れてきました。

 美容医療サービスに関する情報提供を契機として消費者トラブルが発生していること等を踏まえ、2017年に医療に関する広告規制の見直しを含む医療法の改正が行われ(2018年6月1日施行)、これにより、広告規制の対象範囲が単なる「広告」から「広告その他の医療を受ける者を誘引するための手段としての表示」へと変更され、現在、ウェブサイトでの情報提供も規制の対象に含まれるようになっています。

 厚生労働省では、「医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関する広告等に関する指針(医療広告ガイドライン)」(2018年5月8日。最終改正2022年12月28日)及び「医療広告ガイドラインに関するQ&A」(2018年8月10日。最終改正2022年4月1日)が示され、医療に関する広告規制への関係者の理解を深めるため、厚生労働省が実施している「医業等に係るウェブサイトの調査・監視体制強化事業」(「ネットパトロール」と称されます)で実際に医療広告規制への抵触が認められた事例や、医療広告規制の内容の周知が必要と考えられた事例等を整理した「医療広告規制におけるウェブサイトの事例解説書」が2021年7月26日付で公表されていました。

 この「医療広告規制におけるウェブサイトの事例解説書」の第2版が2023年2月1日付で公表されました。(厚生労働省のホームページから入手可能です。https://www.mhlw.go.jp/content/000808457.pdf

美容医療と広告規制

 上記のように、美容医療に関連してウェブサイト等による情報提供も規制の対象とされるに至った経緯からすれば当然と言えますが、「事例解説」で出てくる事例の多くは美容医療に関連するものです。

 美容医療では、ホームページの謳い文句で興味を持った患者がカウンセリングに訪問して、そのまま高額な施術費用をクレジットカード決済で支払って当日施術を受けるという流れで、中途解約や契約の取り消し、説明義務違反が問題となるケースは少なくありません。

契約解消のための法整備は不十分

 美容医療では、自由診療で高額な施術費用を患者が負担しているだけに、損害賠償とは別に、中途解約や契約の取り消しが認められて費用の返金が実現するだけでも被害回復に有意義な場合は少なくありません。

 もっとも、医療法(及び、ガイドラインで重畳的な適用関係を認める景品表示法や医薬品医療機器等法、健康増進法)では、規制の違反に対する刑事罰や是正や中止命令等の行政処分は規定するものの、民事上の特別な解約ルールは定められていません。

 そして、2019年3月号の本稿で報告したように、特商法改正で美容医療の一部の分野には「特定継続的役務提供」としてクーリングオフや中途解約、不実告知等による意思表示の取り消しが可能な類型が認められたもののいまだ限定的なものにとどまっています。

 なお、消費者契約法に関しては、包茎手術及びこれに付随する亀頭コラーゲン注入術の診療契約に関する不利益事実の不告知を認めた東京地判平成21年6月19日(判時2058号69頁)以外には、美容医療に関して同法の適用を認める裁判例は集積していない現状ではありますが、少なくとも美容医療が同法の適用除外とされる根拠はなく、積極的に同法による救済が図られるべきといえるでしょう。

 このような現状において、広告規制に反するウェブサイトでの情報提供の事実は、不利益事実の不告知その他の消費者契約法4条による取り消し等の主張や民法上の錯誤、詐欺取り消し等の主張を基礎づける事実として活用できます。

広告規制と説明義務との関連

 また、ウェブサイトによる情報提供が患者の適正な自己決定を妨げているケースは珍しくないので、広告規制は、説明義務とも関連することが少なくありません。

 下級審裁判例ですが、ウェブサイトによる情報提供が医療広告規制の対象となる以前の事案にかかる大阪地判平成27年7月8日(判時 2305号132頁)では、次のように、ホームページの記載内容と説明義務との関連について言及しています。

 すなわち、ホームページ(及びパンフレット)には「客観的に効果が得られない場合があるとか,効果には個人差があることの注意事項はなく,そのような場合であっても費用の返還や減額には応じられない旨の記載もない。そうすると,原告のように,被告のホームページを見て○○等に興味をもち,本件医療センターを初めて訪れた者については,被告の実施する○○等が確実に客観的な効果の得られる美容法であると誤って理解している可能性が高いというべきであるから,少なくとも初診時のカウンセリング等において,そのような誤解を改めるべく,○○等を受けたとしてもその効果は確実ではないことのほか,特段の効果を得られなかったとしても費用の返還や減額には応じられない旨の説明を行い,その理解を得る義務があった」と。

まとめ

 契約の取り消しや説明義務違反など、美容医療案件での法的主張を考える際には、本事例解説及びQ&Aを参考に医療広告ガイドラインを参照することが有益なこともあると思われます。