医療事故調査制度、指摘される「格差」~2022年年報から

柄沢好宣(嘱託)(2023年6月センターニュース423号情報センター日誌より)

医療事故調査制度の現況報告

 本年5月10日に、医療事故調査・支援センター(一社・日本医療安全調査機構)から、「医療事故調査制度の現況報告(4月)」が公表されました(https://www.medsafe.or.jp/modules/advocacy/index.php?content_id=2)。こちらは、毎月定例で同センターから公表されているデータで、制度開始後のある時期からは、医療事故報告数は毎月概ね30件前後で推移していますが、本年4月の報告件数も29件と、大きな変動は見られません。

 報告件数自体は、医療事故調査制度開始当初の年間1300~2000件(月あたり約110件~170件)との見通しから比べるとかなり少ない水準ではありますが、常に一定数は継続的に報告されているという見方もできるかもしれません。

事故報告の格差

 もっとも、つい先日も、「医療事故」の判断が病院側に委ねられていることで、報告数に格差が生まれているのではないかと指摘する報道も見られました(朝日新聞デジタル 2023/05/08 5:00 編集委員・辻外記子、米田悠一郎)。

 本年3月に公表された、医療事故調査・支援センターの年報(2022年)の人口100万人あたりの都道府県別年間報告件数を見ても、地域格差は依然残されたままであり、昨年4月号の本稿でもご紹介した過去の都道府県別の報告状況と比較しても、ほとんどその状況に変化はなさそうです。各地域の医療体制によって、ある程度の差が生じることはやむを得ないのかもしれませんが、それでも、全体の報告件数が2.8件/年である中で、比較的大きな地方公共団体を抱える、宮城県、埼玉県、大阪府などで平均を下回っていることは、注目される必要があるように思います。

 また、こうした地域差だけでなく、医療機関相互の間でも格差が生じており、制度開始から7年以上が経過した時点でなお医療事故報告がない特定機能病院が4病院も存在するということには、疑問を感じざるを得ません。

(2022年年報は、こちらからご覧いただけます:https://www.medsafe.or.jp/uploads/uploads/files/nenpou_r4_all.pdf)。

医療安全に資する制度とするために

 こうした状況を受け、上記報道では、「事故として報告することが施設にとってマイナスだという雰囲気をなくしていかねばならない」との機構の木村壯介常任理事のコメントや、「再発防止という制度の趣旨からすれば、医療過誤による死は率先して調査すべき」との名古屋大学の長尾能雅教授のコメントも紹介されています。

 医療事故が起きてしまったこと自体は非常に不幸な結果ではありますが、そうであるからこそ、それを将来につなげることが重要なのだと思います。

 5月27日(土)には医療事故情報センター総会記念シンポジウム「医療事故調査制度の課題~医療安全に資する制度となるために」も開催されました。当日は、様々なお立場のパネリストの皆様からご報告をいただきながら、活発な意見交換をすることができました(ご参加いただいた皆さまには、改めて御礼申し上げます)。

 医療事故調査制度をより医療安全に資する制度とするためにはどのようにすればよいのか、医療事故情報センターでも今回のシンポジウムの成果を踏まえて、引き続き取り組んで参ります。