医療等情報の二次利用に関するワーキンググループ

松山健(常任理事)(2024年3月センターニュース432号情報センター日誌より)

医療等情報の二次利用に関するワーキンググループ

 厚労省は、2024年2月15日に、「医療等情報の二次利用に関するワーキンググループ」(第1回は2023年11月13日)の第3回会合を開催しました。

医療情報の二次利用とは?

 医療情報の利用には、大きく分けて、一次利用と二次利用があります。一次利用とは、患者の診療等によって得られた情報を患者本人の治療のために使用するなど、情報を取得した本来の目的のために使用することであり、二次利用とは、取得した本来の目的以外の目的のために使用することを指します。たとえば、地域の医療機関の間で患者の診療情報を共有することは一次利用に該当し、収集した医療データを治療法の開発や調査などに活用することは二次利用に該当します。

政府主導で議論が進んできた経緯

 医療情報の二次利用についての具体的な検討は、平成25年8月2日付閣議決定により医療分野の研究開発の司令塔の本部として内閣府に設置された「健康・医療戦略推進本部」が健康・医療戦略推進法の成立に伴って司令塔機能を担って進め、2014年7月に「次世代医療ICTタスクフォース」、2015年4月に「次世代医療ICT基盤協議会」を開催し、同協議会の「医療情報取扱制度調整ワーキンググループ」が2016年末に「とりまとめ」を公開しています。

 2020年11月から開催されている「健康・医療データ利活用基盤協議会」は、2023年12月15日に第11回会合を開催しています。政府の医療DX推進本部(2020年10月号の本稿で紹介(執筆・柄沢好宣嘱託 https://www.mmic-japan.net/2022/10/01/diary/))は、2023年6月2日に「医療DXの推進に関する工程表」を取りまとめ、全国の医療機関での電子カルテ情報を共有可能とする仕組みの構築、2030年には標準型電子カルテを概ねすべて医療機関で導入することを目指す等の具体的な工程を示していますが、医療情報の二次利用の環境整備は実現を目指す5つの目標の一つに挙げています。

医療情報の二次利用によるメリット

 規制改革推進会議(内閣府の諮問機関)2023年6月1日付「医療等データの利活用法制等の整備について(案)」では、諸外国の例として、イスラエルでは全人口をカバーするデータ基盤が存在した結果、新型コロナウイルス感染症のワクチンの初回投与から僅か2か月で120万人という大規模なデータが収集、論文化されて政策や医薬品開発の重要な判断材料になったという事例を挙げて、「換言すれば、医療等データは、1 国民の健康増進、2 治療の質の向上、3 医療の技術革新(医学研究・医薬品開発等)、4 医療資源の最適配分及び5 社会保障制度の持続性確保(医療費の適正化等)に活用することが可能であり、そのような活用を可能とする社会システムを早急に整備する必要がある。」と述べています。

法制面では、プライバシー等の個人の権益保護との調整が課題

 他方、我が国の個人情報保護法制の下では要配慮個人情報の第三者提供には原則的に本人の同意が必要であり、「公衆衛生の向上…のために特に必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき」(個人情報保護法第20条第2項第3号、第27条第1項第3号)等の例外規定の柔軟な運用や解釈の明確化などでは限界がありました。

 そこで、個人情報保護法の2015年改正(2017年5月施行)により「匿名加工情報」(特定の個人を識別することができないように個人情報を加工して得られる個人に関する情報であって、当該個人情報を復元することができないようにしたもの)の仕組みが設けられ、病院などから提供された医療情報を加工し、研究開発などに活用するために、2017年5月に個人情報保護法の特例法として「医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報に関する法律(「次世代医療基盤法」)が制定され、翌2018年5月に施行されました。

 その後、2020年の個人情報保護法改正(2022年4月施行)で、「仮名加工情報」(他の情報と照合しない限り特定の個人を識別できないように加工した個人に関する情報)の仕組みが設けられ、次世代医療基盤法の2023年改正で、既存の匿名加工医療情報と比べて、より緩やかな加工方法で作成することができる仮名加工医療情報の利活用の仕組みが新たに創設され、医療情報の二次利用の現実化に向けての法制面での基盤整備がよりいっそう進みました。

第3回WGでは仮名加工医療情報がテーマ

 今回のWGでは、仮名加工情報の利活用と個人の権益保護を図るための法制度の在り方を論点として議論が行われました。

 厚労省からは、データの標準化・信頼性、クラウド、API連携等の技術的な論点については、すでに「医療等情報の二次利用に関する技術作業班」を設置して、今後月1回ペースで開催し専門家による議論を深め、4月に検討事項を整理する予定であると説明されました。

 医療ビッグデータ(大量のデータの集まりのこと)を収集することによって、国家レベルでの医学研究、医薬品開発等で国民全体が享受する治療の質の向上、健康増進、公衆衛生確保を図ることがICT(情報通信技術)の進展によって実現可能な時代に入ってきており、医療情報の二次利用のニーズ、メリットがあるのは言うまでもありません。

 他方で、疾病、診療に関わる個人情報は、原情報の匿名加工、仮名加工のプロセスを含めた二次利用に至るまでの課程で万が一の情報流出が生じ悪用された場合に深刻な被害が生じうる極めてセンシティブなプライバシー情報であり、個人の同意やコントロールの及ばない利用可能領域が生まれることへの警戒を緩めるわけにもいきません。

 ワーキンググループでの今後の議論の進展を見守りたいところです。