制度への理解を欠く一部の医療機関への対応が急務 ~医療事故調査・支援センター2023年年報より

堀康司(常任理事)(2024年5月センターニュース434号情報センター日誌より)

発足から8年3ヶ月を経た医療事故調査制度の姿

 日本医療安全調査機構は、本年3月18日に、医療事故調査・支援センター2023年年報を公表しました。

 医療事故調査制度が2015年10月に発足し、2023年末で8年3ヶ月が経過しましたが、今回の年報からも、一部の医療機関において、医療事故調査制度に対する理解が進んでいないことが示唆されています。

センター合議による報告推奨に応じない医療機関が4割以上

 同年報によれば、2023年に遺族から同センターに対して医療事故報告の対象となるかどうかの相談が寄せられた件数は520件と過去最高となりました。この数字からは、制度の社会的な認知が進んでいることが想定されます。

 他方で、遺族や医療機関から医療事故報告の対象となるかどうか相談を受けた同センターが、合議を行った上で、医療事故として報告を推奨するとの助言した45例のうち、実際に報告がなされたものは26件(57.8%)に留まりました。同センターに相談しながら、その助言に沿った対応を拒んだケースが4割を超えていることは本当に残念です。

500床超えの病院の28.6%が報告経験なし

 2023年に同センターへ報告された361件の医療事故のうち、特定機能病院(88施設)からの報告は56件(15.5%)を占めています。しかし、同年報によれば、過去1件も医療事故を報告していない病院が3施設あるとのことです。病床数でみても、500床を超える388病院のうち、111病院(28.6%)は制度発足から昨年末までに1件も医療事故を報告していません。高度で侵襲的な医療を担う特定機能病院や、500床を超える大規模な病院において、制度発足から8年3ヶ月の間に、医療に起因する患者の死亡を全く経験していない施設がこれほど存在するとは考えがたく、一部の医療機関では適切に医療事故を拾い上げていないのではないかとの疑問が残ります。

実質を欠いた院内調査事例も?

 2023年に院内調査結果が報告された316件には、外部委員が参加していないものが46件(14.6%)含まれています。また、院内調査結果報告書319件のうち、20件(6.3%)では院内調査の報告書のページ数が1~3頁に留まっていたとのことです。一部の医療機関では、実質を欠いた調査しか行われていないことが強く疑われます。

理解を欠く医療機関に対する具体策の検討を

 同年報からは、医療事故調査制度が多くの病院において定着しつつあることも理解できるのですが、一部の医療機関では、医療事故を適切に拾い上げて報告しようとしていなかったり、客観性や透明性を持った調査が行われていないことが強く推察されます。こうした医療機関への対応が放置されるようであれば、真剣に医療事故の報告・調査を実施してきた医療機関の熱意に水がさされる結果となりかねません。

 医療機関の自発性に多くを委ねる制度として運営されてきた同制度ではありますが、センター合議によって報告を推奨された場合には報告を義務づけることや、院内調査の際には複数の外部委員の参加を要件とすること、大規模医療機関でありながら未だ全く事故報告を行った実績を持たない医療機関については、同センターが実情をヒアリングすること等によって、同制度への理解を欠く一部の医療機関への具体的な対応を進めていくことが、医療安全の実現のために急務であると言えます。