堀康司(常任理事)(2025年5月センターニュース446号情報センター日誌より)
令和7年10月に向けた制度運用検証作業
医療法上の医療事故調査制度が本年10月で10年の節目を迎えるにあたり、医療事故調査・支援センターは、同制度の運用の検証等を行うために、医療安全の更なる向上を目指す検討会(上田裕一委員長)を設置して、昨年10月から議論を開始しています。
本年3月31日には、本年2月までに実施された3度の検討会におけるこれまでの検討状況の概要が公表されています。
医療事故報告件数のばらつき
この概要によりますと、医療事故の判断に関する支援について議論された際には、都道府県によって人口あたりの医療事故発生報告件数にばらつきがあることが指摘されています。
実際に、本年3月に同センターが公表した2024年の年報においても、都道府県別人口100万人あたりの医療事故発生報告件数(制度開始からの累計から1年換算)は全体で2.8件/年とされていますが、唯一年換算で1件未満であった福井(0.9件/年。以下同じ)を筆頭に、埼玉(1.7)和歌山(1.8)高知(1.8)山口(1.9)の5県が年換算で2件未満となっています。上位5府県(京都4.8、宮崎4.8、三重4.7、大分4.7、島根4.0)では年換算で4件を超えていることに照らしても、やはり都道府県間で報告件数にばらつきが生じていることは明らかです。
少なくとも年換算で2件未満だった下位5県については、国が各県の医療安全支援センターを通じて県内の医療機関に対する同制度の周知や研修を行うなど、なんらかのテコ入れを行うべき時期が来ているのではないでしょうか。
センター合議の結果を尊重しない医療機関の存在
検討会では、同センターが医療事故の判断について遺族から相談を受けた件数や、センター合議(医療事故の判断に関する複数の医師・看護師等による合議に基づく医療機関への助言)の状況等についても意見交換が行われています。
2024年の年報を見ても、遺族からの求めでセンターから医療機関に伝達した件数は制度開始以来累計204件に達していますが、うち事故報告がなされたものはその1割強の23件でした。また、2024年にセンター合議の結果として報告を推奨すると助言したものは45件でしたが、うち17件(37.8%)では医療事故としての報告はなされなかったとされています。センター合議の結果を尊重しない医療機関が少なくないことは大変に残念です。
こうした実情に対して、センターが遺族の相談内容を伝達した場合の伝達後の遺族への対応状況を把握してはどうかという指摘や、センター合議における医療起因性・予期性に関する考え方を同センターで整理して、医療機関の参考とできるようにすることなどの提案がなされています。
より透明性の高い制度運営に向けて
検討会では、この他にも、病理解剖実施支援、院内調査の質やその進捗管理、再発防止のテーマ抽出のあり方や提言の活用・評価などについて精力的な意見交換が行われており、本年10月までの間には、さらにセンター調査、事故調査の知識・技能に関する研修といったさまざまな論点が取り上げられる予定です。
今回の制度検証を通じて、まず何よりも、調査されるべき医療事故が正しく拾い上げられるための工夫が具体化されることを期待したいと思います。どの都道府県のどの医療機関を受診した場合でも、医療事故は医療事故であると正しく判断され、その原因が調査される制度となることは、医療に対する国民の信頼を確保する上で必須の事項です。
当センターでは、引き続き患者側からの視線でこの検討会の議論を見守っていきたいと思います。