産科医療補償制度の現在地 ~2025年12月運営委員会資料より

堀康司(常任理事)(2026年3月センターニュース456号情報センター日誌より)

運営委員会の資料にあらわれた17年の歩み

 産科医療補償制度は2009年1月の発足から17年が経過しました。今回の本稿では、昨年12月23日開催の同制度運営委員会の資料から、その現在地について確認してみたいと思います。

原因分析報告は累計4334件、「事例の経過」作成工程の短縮が課題

 昨年10月末時点で、制度加入機関数は3029機関(加入率99.9%。うち2025年1-6月の分娩取扱い機関数は2104機関)、発足からの審査総数は6101件、うち補償対象と認定されたものは4689件となっており、補償対象として原因分析が開始されたケースのうち4334件で報告書を送付済みとなっています。

 報告書の作成日数は平均で概ね1年とすることが目標とされていますが、2025年度に送付した138事案の平均は438.3日で、2021年度の560.2日と対比すると4ヶ月程度短縮されていますが、2024年度送付分(421.1日)からは長期化に転じています。

 報告書の「事例の経過」が完成した後の工程に要する日数は、2024年度で平均146.8日、2025年度上期で同133.5日と、概ね4ヶ月程度で短縮傾向にありますので、「事例の経過」作成工程の迅速化・効率化が望まれます。

改善要望の送付は累計155件、CTG判読関連の要望が最多

 同一分娩機関における複数事案の原因分析が行われた結果、過去に指摘された事項について同様の指摘が繰り返された場合には、原因分析委員会の判断によって、報告書とともに分娩機関に対し一層の改善を求める内容の「別紙(要望書)」が送付され、6ヶ月後を目途に改善内容の報告を受け、原因分析委員会で確認するという仕組みが設けられています。

 制度発足から昨年10月末までに155件の改善要望が送付されています。改善要望事項としては、胎児心拍数陣痛図(CTG)の判読と対応が57件と最多で、診療録の記録が44件、子宮収縮薬の投与方法が27件となっています。

 この改善要望の送付件数は、2021年度~2024年度でみると年間7~13件であることが報告されており、年間の報告書送付全体に占める比率は2.3~4.5%となっています。この結果は、毎年の脳性麻痺症例の数%程度が、いわゆる「リピーター」において生じている可能性を示すものと言えます。同制度発足以前にはこうした情報を得ること自体が困難でしたので、脳性麻痺症例の悉皆調査の重要性をあらためて感じます。

2回目の改善要望送付事例も

 大変残念なことに、昨年11月25日の同制度原因分析委員会には、改善要望に基づく改善取り組み報告を受けていたにもかかわらず、再び同一の診療行為に関して厳しい評価がなされるという事態が生じたため、2回目の改善要望の送付が決定されたことが報告されています。このような経緯で実際に脳性麻痺を被ってしまった児と家族の気持ちを想像するだけで、本当に胸が痛みます。

 こうした出来事が再発して産科医療に対する信頼が失われることのないよう、現状の仕組みだけでは安全なお産の確保に繋がらなかったという現実を踏まえて、医療界からのより踏み込んだ対策が強く求められると言えます。

より一層の安全実現に向けた要約版・全文版のさらなる活用を

 今回の同制度運営委員会では、原因分析報告書要約版公表差し止め訴訟における裁判所の判断の要点も説明されています。資料によれば、2023年2月に報告書を送付した事案の分娩機関と保護者から要約版公表差し止め訴訟が提起された後、2024年9月に1審判決で請求が棄却され、2025年3月に控訴審でもその判断が維持されて確定したとのことです(裁判所・判決日等は資料上不明)。裁判所の結論としては、要約版全件の公表は「公衆衛生の向上のため特に必要がある」(個人情報保護法18条3項3号、同法27条1項3号)場合に該当するため同法による差し止めは認められず、公表されない法的利益が公表する利益に優越するとは言えないため人格権(プライバシー)に基づく差し止めも認められないとの判断が示されたと説明されています。

 2025年10月末時点で4301件が同制度ホームページで公開されており、全文(マスキング版)についても累計で20件の利用申請に基づき延べ5180事例が開示されたとのことです。

 産科医療の安全の実現に向けて、こうした貴重な事例情報が、より一層活用されることを期待したいです。