堀康司(常任理事) (2020年1月センターニュース382号情報センター日誌より)
制度開始4年間の実情
2015年10月からスタートした医療法上の医療事故調査制度は、運用が開始されて5年目に入りました。昨年11月には日本医療安全調査機構(医療事故調査・支援センター)の運営委員会で、4年間の運営実績が公表されました(https://www.medsafe.or.jp/modules/medsafe/index.php?content_id=29)。
大規模病院でも報告文化は定着途上
4年間に報告された医療事故の件数は合計で丁度1500件となりました。4年目(2018年10月~2019年9月)の報告件数は371件と、3年目の378件からほぼ横ばいでした。
4年間で報告実績が全くない病院は、500床台101施設(60.1%)、600床台55施設(50.5%)、700床台30施設(54.5%)、800床台8施設(30.8%)、900床台以上15施設(28.3%)となっており、残念ながら大規模病院でも報告のない施設が相当の割合を占めており、運営委員会でも改善課題の1つに掲げられています。
遺族相談の増加と医療機関相談の減少
センターが受けた相談の件数は累計7751件で、3年目は2017件、4年目も2002件と、おおむね年2000件で横ばいとなっています。
相談者の内訳を見ていくと、医療機関からの相談が1078件→1025件→912件→845件と減少傾向にある反面で、遺族からの相談件数は、525件→738件→979件→1022件と右肩上がりに増加しています。
市民の間で事故調査制度の認知度が上昇したことを示す数字とも言えますが、医療機関からの報告数が横ばいという現状の下で、医療機関からの相談数が減少し、遺族からの相談数が増加しているという実態が何を示しているのか、さらに掘り下げていく必要がありそうです。
センター調査では期間短縮が課題に
センター調査の依頼は4年間で合計105件となっており、1500件の報告総数に対し7.0%の事例でセンター調査が依頼されたということになります。年間の依頼件数も3年目は31件、4年目は34件と、ほぼ横ばいとなっています。
センター調査の報告書は、2019年9月末までに合計28件が交付されました。4年目は1年で20件の報告書が交付されており、その後も毎月2-3件程度のペースで交付が進められていますが、依頼から交付までの平均期間は約2年1ヶ月に達しており、この期間の短縮化が大きな課題となっています。
搬送先等の情報欠落が遅延の要因?
運営委員会では、こうしたセンター調査の長期化要因の1つとして、複数医療機関が関連した事例(全体の約2割弱)では、搬送先等からの診療情報の収集に時間を要することが挙げられています。
事故の発生した病院自身が調査を行う段階でも、関連する他の医療機関での診療経過に関する情報の取り寄せは必須の作業となるはずです。センター調査の際にこの作業に時間を要しているとの指摘は、院内調査の段階で他院の情報を十分確認しないまま調査が行われている可能性を示唆するものと言えます。
こうした問題については、院内事故調査の手法の共通化を進めることが何よりも重要と考えられますが、現時点においても、弁護士が遺族代理人として関与する際には、他院の診療情報を取り寄せて提供する必要があることを指摘し、遺族の側からも取り寄せ作業の円滑化に協力していくといった対応を心掛けていくことが重要と言えそうです。
地域差や剖検・Aiの実情は?
3年間の実績が公表された際には、地域別の報告件数のばらつきや解剖・Ai(死後画像撮影)実施は半数以下であることがわかるデータが掲載されていました(2019年1月本欄記事https://www.mmic-japan.net/2019/01/01/diary/)。
しかし今回の公表情報では、こうした項目についてはデータが掲載されておらず非常に残念です。
経時的な変化を確認しながら制度運用の改善を検討する上でも、多様な視点からの情報開示が継続されることを切に望みます。
改善に向けた議論が進む
4年間の実績を踏まえた課題の整理と改善に向けた作業は、運営委員会においても進められており、運営委員会の開催頻度も2019年から年3回とされました。また、制度の定着・報告件数の増加・センター調査期間の短縮化といった具体的課題に取り組むために、課題に対応したワーキンググループを設置する方針が打ち出されており、機構においても課題克服に向けた議論のピッチが上がっていく見通しです。
今年は、遺族側の視点から課題を整理・集約して、改善に向けた提言を行うことが今まで以上に重要となりそうです。
今年創立30周年を迎える医療事故情報センターにおいても、より一層の取り組みを進めていきたいと思います。