医療事故調査制度10年を迎えて

柄沢 好宣(常任理事)(2025年10月センターニュース451号情報センター日誌より)

医療事故調査制度が10年を迎えました

 医療事故調査制度が2015年10月の運用開始から10年を迎えました。

 このひとつの節目を迎えるに際し、医療事故情報センターでは、本年7月1日付で「医療事故調査制度の運用の改善と法改正を求める意見書」を公表しています※1。

「医療事故」報告に関する現状の議論状況

現在の医療事故調査制度では、本来、「医療事故」として事故調査が行われるべき事例についても、当該医療機関の管理者が「医療事故」でないと判断してしまえば、事故調査が行われないままとなってしまいます。そこで、私たちの意見書においても、この点に関する法改正の必要性を指摘しました。

 現在、日本医療安全調査機構でも、制度開始から10年に際して「医療安全の更なる向上を目指す検討会」が立ち上げられており、「医療事故」の報告に関しては、都道府県ごとの医療事故発生報告件数にばらつきがあることや、医療事故の判断に関する検討経過等の医療機関へのヒアリング実施について意見が出ていますが※2、あくまでも現行制度の範囲での検討に留まっています。

 また、本年6月には、厚生労働省でも「医療事故調査制度等の医療安全に係る検討会」が立ち上がり、これまでに3回の会合が重ねられてきました。現状、医療事故調査制度そのものに焦点を当てたものというよりは、医療機関における医療安全管理体制全般に関する議論がなされている状況ですが、第3回会合では、厚労省研究班※3での取り組みを踏まえて、各医療機関で把握すべき医療事故等の範囲を定めてはどうかという提案がなされたようです※4。ここでの議論は、患者の取り違えなど、患者への影響度が大きく、かつ、確実にそれを回避する手段が普及しているような「起きてはならない医療事故」(いわゆるネバーイベント)をA類型、患者への影響度は大きいものの、その回避可能性は必ずしも高くない事故をB類型と位置づけ、前者の把握は義務とし、後者の把握は努力義務とするというもののようです。

 上記の議論を医療事故調査制度との関係で見た場合、ひとつの死亡事例について院内での報告の要否について現場に混乱を来たさないか、本当に医療の安全に資する運用につながるのかという観点から、慎重な検討を要するように思われます。

「医療事故」が遺漏なく調査されるために

 本年5月31日に行われた医療事故情報センター総会記念シンポジウムでは、患者側代理人として医療事件に取り組む弁護士によって組織されている全国の弁護団・研究会に所属する弁護士を対象に行った、医療事故調査制度の運用実態を把握するためのアンケートの結果も報告しました。その中で、医療法上の「医療事故」として事故調査が行われるべきと判断される事案であるにも関わらず、事故調査が行われなかった事例が75件確認され、具体的な事例も多数紹介されました※5。

 起きてしまった事故は非常に残念なものではありますが、いずれも、将来の医療の安全につなげるべき貴重な事例でもあるはずです。こうした事例がひとつでも遺漏なく検証され、将来の医療の安全につながるような制度運用、さらには法改正が、今、求められているのではないでしょうか。

 (参考資料)

※1 医療事故調査制度の運用の改善と法改正を求める意見書

※2 https://www.medsafe.or.jp/uploads/uploads/files/kouhyousiryou.pdf(閲覧日:2025/9/22)

※3 令和6-7年度厚生労働科学研究「医療機関の特性に応じて求められる医療安全活動及び必要 

   な組織体制等に関する研究」

※4 https://gemmed.ghc-j.com/?p=69255(閲覧日:2025/9/22)

※5 2025年総会記念シンポジウム報告書